この記事は以下のストーリーの続きです。
このストーリーの第2話以外から来られた方は、ぜひこちらのストーリーも併せてお楽しみください。
👉ソニカの人(30代・自営業)第2話はこちら
Scene 1|夜の車内で気づいた小さな不便

その夜は、少しだけ遅くなった。
帰宅前にコンビニへ寄って、ガムとお茶を買った。
支払いを済ませて車に戻り、エンジンをかける。夜風は思ったよりも涼しくて、窓を少し開けた。
ガムのパッケージをグローブボックスにしまおうとして、ふと手が止まった。
——暗い。
車内灯はついているけれど、運転席側の上だけ。
グローブボックスの中はほとんど見えない。
指先だけで適当に押し込んでみたけれど、何か他のものを潰してしまいそうで、結局スマホのライトを使った。
「そういえば、この車…グローブボックスに照明、ついてないんだな」
べつにそれで困ることはない。
でも、なんとなく引っかかった。
軽自動車なんて、こんなもんだと思っていた。
いや、思い込んでいた、のかもしれない。
Scene 2|「まぁ軽だし…」という諦めからの転換

「軽だし、しょうがないよな」
今まで何度、そうやって納得してきただろう。
段差で響くゴトッという音、足元の狭さ、天井を叩く雨音。
そのたびに「まぁ軽だし」で済ませてきた。
けれど、今回は少し違った。
次の日。ふと思い立って「グローブボックス LED 後付け」と検索してみた。
出てきたのは、USBで光るLEDテープや、ヒューズ電源を使っての増設方法。
中には「シガーソケットにUSBアダプターを差して電源をとるだけ」というものもあった。
思っていたよりも、ずっと簡単そうだった。
「ヒューズ電源って、何?」
そう思いながら、もう少し検索してみる。
電源を取り出す専用のキットがいくつも市販されていて、構造や使い方も丁寧に解説されていた。
「へぇ…そんなことができるのか」
なんとなく面白そうだと思った。
スマホの充電にも使えそうだし、もしもの時に役立つかもしれない。
これまでの自分だったら、ここで画面を閉じて終わっていた。
でも今回は、少し違った。
「やってみるのもアリかもしれない」
小さな不便が、小さな好奇心を連れてきた。
Scene 3|調べてみたら意外と簡単だった

夜、ノートパソコンを開いて、動画をいくつか見る。
ヒューズボックスの場所、どのヒューズから電源を取るか、検電テスターの使い方。
検電テスター? 聞いたこともなかった。
でも、説明はわかりやすかった。
先端を金属部分に当てて、光ったら通電している。
それだけ。
難しそうな工具だと思っていたけど、意外と直感的だった。
「このヒューズがACCで…あ、こっちは常時電源か」
図解と動画を交互に見ながら、少しずつ知識がつながっていく。
正直、電気には苦手意識があった。感電するんじゃないかとか、車が壊れるんじゃないかとか。
けれど、ちゃんと手順を踏めば、怖くはないらしい。
「なんだ、案外…いけるかもな」
工具も一式揃えたわけじゃない。
まだ何も分解していない。
でも、気持ちは少し前に進んでいた。
知識って、安心に変わる。
そして、安心は、動くための第一歩になる。
数日後。テストがてら、USB給電タイプのLEDテープをひとつ買ってみた。
グローブボックスの天井に両面テープで貼りつけ、配線はそのへんに軽く這わせただけ。
シガーソケットにUSBアダプターを差し込んで、スイッチを入れる。
ふわっと、淡い光が広がった。
「明るくなった。これだけでも、だいぶ違うもんだな」
ただ、ひとつだけ気になることもある。
これでシガーソケットが埋まってしまったし、配線も思ったより目立つ。
「……やっぱり、ちゃんと配線引き直してみようかな。次の休日にでも。」
小さな工夫の先に、次の“やってみたい”が見えた。
Scene 4|そういえばオイル交換って…

翌朝。いつものようにエンジンをかけて、出勤の道を走る。
片道50km。往復で100km。
1週間で500km、1ヶ月で2,000km以上。
そういえば、もうすぐ納車から3ヶ月が経つ。
「……え、6,000km?」
スマホの走行管理アプリを開いて、累積距離に一瞬言葉を失った。
「ってことは…オイル交換、そろそろ?」
納車時に整備してもらっていたけれど、ここまでの走行は想定していなかった。
月1ペースでオイル交換が必要になる。
「でも、整備工場に毎月通うのは、ちょっと…」
なんとなく検索してみると、「上抜きタイプの電動オイルチェンジャー」という便利そうな機械がヒットした。
ボンネットを開けて、オイルゲージの管から吸い出すらしい。
「ドレンボルトを外さなくてもいいのか…」
ジャッキアップも不要、オイルもこぼれにくい。
動画を見ながら、ちょっとワクワクした。
数日後。思い切ってオイルと電動チェンジャーを購入。
休日の午前、ホームセンターで買ったポリ容器を横に置いて、初めてのオイル交換を試してみた。
最初は吸い出し口の管を入れる深さに戸惑ったけれど、時間をかけてじっくり作業した。
ゆっくり、古いオイルが抜けていくのを見つめながら、ちょっとした達成感を覚えた。
フィルター交換までは怖くて手を出せなかったけれど、
それでも、自分でやれたという実感がうれしかった。
エンジンをかけた瞬間、少しだけ音が軽くなったような気がした。
……気のせいかもしれない。
でも、そんな気がしただけで、今日はちょっといい日だった。
Scene 5|“不満”が関係を深める

グローブボックスが暗かったこと。
オイル交換が思ったよりも頻繁だったこと。
どちらも、「ちょっとした不満」だった。
でも、それをきっかけに、車のことを調べて、少し手をかけてみた。
その結果、不満だった部分は解消され、
いつのまにか、車に触れる時間が楽しくなっていた。
「完璧な車」じゃない。
むしろ、その逆かもしれない。
でも、不満があるからこそ、関わる余地がある。
関われば、愛着が生まれる。
買ったときは、ただの“道具”だった。
だけど今は、もう少しだけ“相棒”に近づいてきた気がする。
運転席に腰を下ろして、エンジンをかける。
アイドリングの音が、ほんの少しだけ、優しく聞こえた。
「この車、もしかして……けっこう面白いやつかもな」買った瞬間ではなく、
“少しずつ関係を築いていくこと”が、
車との「お気楽カーライフ」の本当の始まりなのかもしれない。
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