『ソニカの人』第3話|夜の車内で気づいた、小さな違和感

『ソニカの人』第3話|夜の車内で気づいた、小さな違和感_アイキャッチ カーライフ物語

この記事は以下のストーリーの続きです。
このストーリーの第2話以外から来られた方は、ぜひこちらのストーリーも併せてお楽しみください。

Scene 1|夜の車内で気づいた小さな不便

夜の車内が暗くて見えにくいことに気づいた。

その夜は、少しだけ遅くなった。

帰宅前にコンビニへ寄って、ガムとお茶を買った。
支払いを済ませて車に戻り、エンジンをかける。夜風は思ったよりも涼しくて、窓を少し開けた。

ガムのパッケージをグローブボックスにしまおうとして、ふと手が止まった。
——暗い。
車内灯はついているけれど、運転席側の上だけ。
グローブボックスの中はほとんど見えない。
指先だけで適当に押し込んでみたけれど、何か他のものを潰してしまいそうで、結局スマホのライトを使った。

「そういえば、この車…グローブボックスに照明、ついてないんだな」

べつにそれで困ることはない。
でも、なんとなく引っかかった。

軽自動車なんて、こんなもんだと思っていた。
いや、思い込んでいた、のかもしれない。

Scene 2|「まぁ軽だし…」という諦めからの転換

グローブボックスを明るくする方法を調べてみた。案外簡単に出来そうなことに気づく。

「軽だし、しょうがないよな」

今まで何度、そうやって納得してきただろう。
段差で響くゴトッという音、足元の狭さ、天井を叩く雨音。
そのたびに「まぁ軽だし」で済ませてきた。

けれど、今回は少し違った。

次の日。ふと思い立って「グローブボックス LED 後付け」と検索してみた。
出てきたのは、USBで光るLEDテープや、ヒューズ電源を使っての増設方法。
中には「シガーソケットにUSBアダプターを差して電源をとるだけ」というものもあった。

思っていたよりも、ずっと簡単そうだった。

「ヒューズ電源って、何?」

そう思いながら、もう少し検索してみる。
電源を取り出す専用のキットがいくつも市販されていて、構造や使い方も丁寧に解説されていた。

「へぇ…そんなことができるのか」

なんとなく面白そうだと思った。
スマホの充電にも使えそうだし、もしもの時に役立つかもしれない。

これまでの自分だったら、ここで画面を閉じて終わっていた。
でも今回は、少し違った。

「やってみるのもアリかもしれない」

小さな不便が、小さな好奇心を連れてきた。

Scene 3|調べてみたら意外と簡単だった

電装DIYの基本を調べてみた。案外簡単だ。自分にもできるかも。

夜、ノートパソコンを開いて、動画をいくつか見る。
ヒューズボックスの場所、どのヒューズから電源を取るか、検電テスターの使い方。
検電テスター? 聞いたこともなかった。

でも、説明はわかりやすかった。
先端を金属部分に当てて、光ったら通電している。
それだけ。
難しそうな工具だと思っていたけど、意外と直感的だった。

「このヒューズがACCで…あ、こっちは常時電源か」

図解と動画を交互に見ながら、少しずつ知識がつながっていく。
正直、電気には苦手意識があった。感電するんじゃないかとか、車が壊れるんじゃないかとか。

けれど、ちゃんと手順を踏めば、怖くはないらしい。

「なんだ、案外…いけるかもな」

工具も一式揃えたわけじゃない。
まだ何も分解していない。
でも、気持ちは少し前に進んでいた。

知識って、安心に変わる。
そして、安心は、動くための第一歩になる。

数日後。テストがてら、USB給電タイプのLEDテープをひとつ買ってみた。
グローブボックスの天井に両面テープで貼りつけ、配線はそのへんに軽く這わせただけ。
シガーソケットにUSBアダプターを差し込んで、スイッチを入れる。

ふわっと、淡い光が広がった。

「明るくなった。これだけでも、だいぶ違うもんだな」

ただ、ひとつだけ気になることもある。
これでシガーソケットが埋まってしまったし、配線も思ったより目立つ。

「……やっぱり、ちゃんと配線引き直してみようかな。次の休日にでも。」

小さな工夫の先に、次の“やってみたい”が見えた。

Scene 4|そういえばオイル交換って…

オイル交換も自分で試してみることにした。試してみれば全く難しくない。

翌朝。いつものようにエンジンをかけて、出勤の道を走る。
片道50km。往復で100km。
1週間で500km、1ヶ月で2,000km以上。
そういえば、もうすぐ納車から3ヶ月が経つ。

「……え、6,000km?」

スマホの走行管理アプリを開いて、累積距離に一瞬言葉を失った。
「ってことは…オイル交換、そろそろ?」

納車時に整備してもらっていたけれど、ここまでの走行は想定していなかった。
月1ペースでオイル交換が必要になる。

「でも、整備工場に毎月通うのは、ちょっと…」

なんとなく検索してみると、「上抜きタイプの電動オイルチェンジャー」という便利そうな機械がヒットした。
ボンネットを開けて、オイルゲージの管から吸い出すらしい。

「ドレンボルトを外さなくてもいいのか…」
ジャッキアップも不要、オイルもこぼれにくい。
動画を見ながら、ちょっとワクワクした。

数日後。思い切ってオイルと電動チェンジャーを購入。
休日の午前、ホームセンターで買ったポリ容器を横に置いて、初めてのオイル交換を試してみた。

最初は吸い出し口の管を入れる深さに戸惑ったけれど、時間をかけてじっくり作業した。
ゆっくり、古いオイルが抜けていくのを見つめながら、ちょっとした達成感を覚えた。

フィルター交換までは怖くて手を出せなかったけれど、
それでも、自分でやれたという実感がうれしかった。

エンジンをかけた瞬間、少しだけ音が軽くなったような気がした。
……気のせいかもしれない。
でも、そんな気がしただけで、今日はちょっといい日だった。

Scene 5|“不満”が関係を深める

入り口はほんのちょっとの不満。
それを解消した先には愛着が待っていた。

グローブボックスが暗かったこと。
オイル交換が思ったよりも頻繁だったこと。

どちらも、「ちょっとした不満」だった。

でも、それをきっかけに、車のことを調べて、少し手をかけてみた。
その結果、不満だった部分は解消され、
いつのまにか、車に触れる時間が楽しくなっていた。

「完璧な車」じゃない。
むしろ、その逆かもしれない。
でも、不満があるからこそ、関わる余地がある。
関われば、愛着が生まれる。

買ったときは、ただの“道具”だった。
だけど今は、もう少しだけ“相棒”に近づいてきた気がする。

運転席に腰を下ろして、エンジンをかける。
アイドリングの音が、ほんの少しだけ、優しく聞こえた。

「この車、もしかして……けっこう面白いやつかもな」買った瞬間ではなく、
“少しずつ関係を築いていくこと”が、
車との「お気楽カーライフ」の本当の始まりなのかもしれない。


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